目が覚めると、鼻歌がかすかに聞こえてきた。
望美はフッと、そちらへ目をやると銀が洗濯物を干している所だった。
そんなのどかな風景をぼーっと見つめて、何だか景時さんが楽しげに洗濯物をしていたのを思い出したりして、
こんなまどろみが気持ちよいなと思っていたが、
ある物を干そうとしているのを見て、血相を変えて銀の元に駆け出していた。
「ちょ・・・ちょっ!!ちょっと、銀!!!」
相当に慌てて、ベランダへ駆け込んだので銀の双眸は大きく見開いていた。
「おはようございます。 お目覚めになりましたか、望美。 そんなに慌ててどうしました?」
「ど、どうしたもこうしたもっ! これは私が洗うって云ったでしょ?!」
そういって、銀の手元から引っ手繰る。
「えぇ、ですから私が干していたのですが・・・」
「洗ってあったからって、干さなくても良いの!私がやるからっ!!」
困った顔をされても、これだけは譲れない。 恥ずかしすぎる・・・。
普通ならば、洗濯も私がやるのだろうけれど、
何だかんだと家事もそつなくこなしてしまう銀は、いつの間にか色々とやってしまっていた。
ありがたい事だし、銀が苦にしておらず、楽しんでやっていると言われてしまえばこちらも何も云えない。
しかし、コレだけは自分でやると以前言っておいたのだ。
「今日は干す物が少なかったので、申し訳ありません・・・」 シュンと、うなだれる銀を見るのはちょっと忍びないが、
やはり恥ずかしい・・・・・・ そう・・・、下着だけはやはり自分で扱いたい。
「しかし・・・いつも目にしてますし、そんなに気になさらずとも良いのでは・・・」
なんて言われては、赤面して俯くしかない。
「そっ、そうだとしても、恥ずかしいでしょ! それに、こうやって・・・洗濯物の内側の方に入れて干さないと・・・」
「? 何かご不便でも?」
「だ、だから・・・他の人にも見えちゃうでしょ・・・っ」と、ゴニョゴニョと口ごもる。
「他の・・・・・・ っ!」 干していると、どうしても薄いものなどは一番手前の方に来てしまったりする。
そうすると、干している日中、誰かに見られてしまう。 それもやはり恥ずかしいものだ。
も〜 と、言いながら自分でササッと干しに掛かる。
そんな望美を他所に、今の今まで気付いていなかった事に銀はハッとし、青ざめる。
「え? ど、どうしたの? 怒ったのは悪かったかもしれないけど、そんな顔しなくても・・・大丈夫? 銀??」
こちらの方が逆に動揺し始めた。
「其処まで考えが及んでおりませんでした。大変申し訳ありません。本当に大変な事を致しておりました」
「へ・・・・・・ ま、まさか私が知らないうちに何度か干してたのっ?!」
「はい、数回ですが干させて頂いておりましたが、そのことを露にも気にしておりませんでした。
このような所業を致した私は・・・・・・っ」
言葉を詰まらせた銀は、その後一人にさせてくださいと言って、その場を後にして出て行ってしまった。
なにやらとてつもなく反省したらしい・・・
何か、私の方が申し訳ないことをしたんじゃないかと、
こんな些細な事で銀を傷つけてしまったのがとても申し訳なく思えてきた。
その後、朝食の時もずっとぼぅっとしている銀に、流石に望美も根負けしてしまった。
「ね、ねぇ 銀。 私が悪かったよ・・・・・・
恥ずかしいけど、そんなに怒るような事じゃないもの・・・ね・・・ ごめんね?
だから、そんなにションボリしないで?」
そう言ったのに
「いいえ。 私が何も考えず干して、望美にそのようなご不快をさせていたと思うと居た堪れません・・・。」
そういって、またシュンとしてしまった。
その後ちょっと一人で出かけてくるといって、外に出てしまった。
そんなに酷い事をしてしまったのかと、考えても考えても答えは出なかった。
望美の事に関しては、それはそれは煮詰めた砂糖のように甘くする銀であるが、
コレくらいの事でそんなにしょんぼりする事なのだろうかと疑問が沸いてくる。
うーんと眉間に皺を大量に刻みつつ、銀が帰ってくるのを待っていた。
「ただいま戻りました」と、先程の寂しいような声ではなく、とても何時ものような・・・
いや、寧ろ少し機嫌の良いような声が玄関先から聞こえてきた。
「お帰りなさい あの・・・銀・・・? 怒ってないの・・・?」
笑顔で紙袋を抱えた銀がリビングに入ってきた。
「? 私が何時怒りましたか?」
「え? 私が干して欲しくないって言ったのがイヤで怒ってたんじゃ・・・」
「滅相もございません。 そのような事で何故私が怒らなければならないのでしょう」
「えぇっ 怒って出て行ったのかと思ったよ! じゃぁ何であんなに項垂れてたの?」
「それは先程も申し上げた通り、私が干していた事に対してです。
望美の事を気遣えなかった事に対して・・・。」
「????」 そうは言われても、同じ内容な気がする・・・
ハテナマークが浮かび上がる中、これを・・・と云って、銀は持っていた紙袋を
望美に手渡しほくほくとした顔をした。
「え・・・? これは・・・何?」
「他の者の目を気にする事を、すっかり忘れておりました。
他の者に、望美のパン○○○やブラ○○○を見られていたと思うと、自分が不甲斐なく思ったのです」
「・・・・・・は・・・ !!!?」
そこでようやく理解した。何故そんなに銀が私ではなく自分自身を責めていたのか。
そして、言ってる言葉に赤面する。
「ちょ・・・っ そ、そんな事でずっと悩んでたの?!」
「そんな事とは。 私にとって、とても大事な事です。
それを他の者にさらけ出していたと思うと、非常に居た堪れません」
口をあんぐりと開けて、呆然と見つめてしまう。
確かに、他人に見られるのはイヤだと言ったが、
やはり好きな人にさらけ出す方がよほど恥ずかしいと思ってた望美にとっては、
さほど気にしてない事だっただけに、是ほどまでに過敏に反応していたとは思ってもいなかった。
「ですから、どうすれば良いかと思っていましたが、
払拭するのが一番だと思いまして。こちらを買って参りました」
「へ? ふ、払拭・・・?」 銀がとても嬉しそうにして進めるので、何だろうと思い袋の中を覗いて見る。
「・・・・・・っ しろがね――――!!?」
お気に召しましたか? と、これまたとても嬉しそうに言ってくるではないか。
もうどうすれば良いのやら。開いた口が塞がらない、言わなくとももうお気づきかと思いますが・・・
そう、下着が数枚入っていた・・・。
「とても種類が豊富で、選ぶのに難儀致しました」 なんて、そんな事はどうでもいい!
普通、男性は女性のモノを選ばない! いや、そこじゃないだろっ、と自分で一人突っ込みをしてしまう。
店内を物色する銀を思い浮かべたら、またも赤面してしまう。
「それから、今まで穿いていらしたモノは全て処分致しますね」と、笑顔で返された。
「・・・っ あ――も――――・・・・・・っ 銀のバカ――!!!!」と、叫ばずにはにはいられなかった。
余談…?
「・・・ハッ! 何で私のサイズ知ってるの!!?」
「それはご想像にお任せします♪」
その後、外に望美の下着が干される事はなかったとか・・・。
2013.9.7
後記
・・・・・・すみません・・・お馬鹿話で本当にすみません、、実は初めて遙かの小説を書いたのはこれだったり・・・酷い!酷いね!
私の初めの銀の印象がこんな感じだったのでしょうか・・・ね・・・ 謎が多いです、、