―――― 出発前夜
「朔 良かったら一緒に寝ない?」
「あら 寝付けない?」
「えへへ・・・ やっぱりご両親に会うと思うとちょっとね」
「貴女ならそんな心配要らないでしょうに」
「不安になるよ」
話しながらも朔は、身体を少しずらし望美が横になれる場所を作ってくれた。
「二人で寝れば、この寒い平泉でも温かいね」
「あら それなら銀殿に頼めばいいじゃない?」
「ちょ・・・っ! も、もぅ! そんな恥ずかしい事言えるはずないでしょ!」
「ふふっ ・・・こんな風に貴女と笑い合えるのも後少しなのね」
「・・・・朔」
「最初の頃は不安だったわ・・・私は神子に選ばれたけれど、邪気を鎮める事しか出来なかった。
そんな時に、望美が舞い降りてきて、どんなに救われたか」
「うぅん 私だって、一人じゃ浄化なんて出来なかったよ。
朔が居てくれたから、安心して此処までこれたんだよ」
「あら 私は最初から肝が据わっている様に見えたけれど?」
「も、もう! びくびくしてたんだから!」
そうだったの? と、朔はクスクスと笑い返した。
本当に、初めてこの地に降り立った者とは思えなかった。
譲を見ればそれは良く判る。 おっかな吃驚の様な譲とは対照的に、どこか悟って見えた望美。
それは、白龍からの加護があったからだろうかとも思ったが、やはり違和感は拭えなかった。
今思い起こせば、梶原家内も町中を歩くのも・・・、勝手知ったると云った風であった。
「? 朔、どうかした?」
「あら、ごめんなさいね。 何でもないわ」
そう? と、首を傾げ 寒いのか、猫の様に気持ちよさ気に朔に擦り寄り暖まる望美。
そんな望美を微笑ましく見詰め、髪を梳いてやる。
望美の心は無垢で、違和感があったとしても疑うという気持ちには、やはりなれない。
だからこそ、皆 望美を好きでいるのだろう。
自分とは違う。 気持ちを素直に態度や言葉、そして振るう剣にも表れているからこそ、
八葉という仲間が存在するのだろうと思う。
流石に自分が黒龍の神子だと知った後、過去の神子達の事を調べてみた。
この様に、白龍の神子と供だって歩みを進めて来たという記述は存在しなかった。
自分は本当に恵まれた環境に今あるのだろうと思える。
黒龍亡き後、塞ぎこんでいた自分を何とか励まそうとしていた兄上・・・。
そんな折り、こんなにも頼られ、姉の様に慕われる存在が出来てしまうと、塞ぎこむ暇もなかった。
大勢で笑い合い、苦しみあい・・・多くの事を皆で共有する事がどんなに楽しい事か・・・
本当にこの一年は目まぐるしく、そして苦しくとも喜びに包まれていたように思う。
それが、後数日で終わってしまう。
天照〔アマテラス〕が岩戸に隠れてしまうような・・・そんな日々に変わってしまうのではと、不安に駆られる。
其れ程に、望美という存在は大きかった。
焦がれ・・・憧れであった―――――
「・・・望美」
不意の朔の返答にも、なぁに?と太陽の様に微笑み返すこの笑顔が愛おしい。
「大好きよ」
そう云って、ギュッと望美を抱きしめた。
「私も大好きだよ。 これからもずっとずっとね」
「えぇ」
二人して、笑いあって互いを抱きしめた。
「朔・・・ 幸せになってね。 幸せになってくれないと、許さないからね?」
「望美・・・。 そうね。
貴女がこんなにも、頑張って戦を終わらせてくれたのだから、幸せにならないといけないわね」
「うん! ありがとう。 ・・・私も頑張るよ」
子供染みた指切りげんまんを交し合いながら微笑み合う。
「銀殿との睦言を?」
これからの企てを内に秘め、言葉を紡いだ望美とは裏腹に、朔は望美の幸せな日々を想い描く。
「へ?! そ、そう云う事じゃなくって!!」
予想外の返答に、顔を真っ赤にさせて否定しようと望美は声を荒げる。
「あら、銀殿が可哀相だわ。 そう云う事お好きそうなのに」
「え、ええええぇ?!」
そんな女同士の語らいを、時が経つのも気にせず話し合った。
2014.02.02