「えっと・・・・あのぉ・・・」
「はい?」
顔!近いよっ!!
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望美はヒノエにお礼の文を贈る為、銀に書くのを手伝って貰える事となった。
銀が机の前に胡坐を掻いて、望美を手招きした。
「・・・え っと・・」
「どうぞこちらへ」
望美の手を取り、自分の上へと座らせる。
「書かれる文面は?」
「こ・・・これ・・・」
懐から取り出したメモ紙を、銀に手渡す。
この狭い船内もいけないと思うが、望美には二人きりを意識するには十分すぎる。
背中から伝わる温もりに、どうにも落ち着かず、心臓が飛び出すのではと思うほど、ドキドキが止まらない。
ドキドキしつつも銀の返答を待ち続ける。
「・・・・・・」
「・・・では、始めましょうか。 十六夜の君は、書は嗜まれておられましたか?」
「えっ!? えっと、学校の授業でちょっとだけ・・・書けるとは言えない・・・かな」
俯きながら、銀の言葉にしどろもどろに答える。
「では、代筆の様な形でもよろしいのでしょうか?」
「う、うん・・・最後に私の名前書けば・・・良いよね?」
「えぇ、その様に致しましょうか」
そういって、硯に筆を這わせ墨を程よくつけてゆく。
「十六夜の君、この辺りをこう・・・そう、持っていて下さいね」
筆を手渡され、先程 銀が持っていたように持って見てくれと云われ、見様見真似で真似てみる。
今度は望美のもう片方の手を、和紙の皺を伸ばしながら書き易い位置に手を留めさせると
望美の両の手に銀も手を重ねた。
「し、しろがね!?」
「? どうされました?」
「あの・・私・・・どうすれば・・・」
「代筆しますと、先程 申し上げましたでしょう?
ですが、普通に代筆するよりも十六夜の君も一緒に書いた方が、折角ですし宜しいのではと」
駄目でしたでしょうか と、耳元で言われてしまえば、無意識に首を横に振っていた。
それが、耳元で囁かれて恥ずかしい余りに首を振っていたとしても、銀は了承と見なすだけだった。
その後は、望美は手に力を入れていなかったので、サラサラと銀は筆を走らせて行く。
「うわぁ・・・綺麗」
銀の文字の美しさに、思わず溜め息をつく。
「十六夜の君の方がお美しいですよ」
「そ、そうじゃなくって・・・」
真面目に言われてるのか、茶化されているのか判断に困ってしまう。
自分で書いている様で楽しい。こんな風に本当に綺麗に書けたら良いのに・・・。
何でこんなに綺麗に書けるのかな? 不思議に思ってしまう。
その為ジッと文字を見入っていたので フッと、あれ? と思う。
「ね、ねぇ銀?」
「はい?」
「ここ・・・私の書いたのとちょっと違う気がするけど・・・」
自分が書いた文面と違い、随分と長い文章で書かれていたので気になった。
「あぁ。 こちらの文体で表現し直してみたのですが、お気に障るようでしたらもう一度書き直しましょうか」
「そうなんだ、んー・・・まぁいっか 何か変な事・・・書いたりしてないよね?」
「ええ」
素直に即答されてしまえば、NOとは云えない。
きっと他の部分も、こちらの文体に手直ししてくれているのだろう。
そのまま続きをお願いして、銀は最後まで書きつけた。
銀は、望美の書いた文面に少し焦がれる部分があった。
それは望美が何時も無意識に言葉に発する、人を魅了するモノと同じだった。
別れ際のヒノエの言葉を思い出せば、其処は何とかしたい。
同じような表現だが、少し畏まった言葉に書き直したというのが事実だ。
流石に、望美の思いを壊す事は憚れる。
自分の葛藤を抑える為の苦し紛れの策であった。
筆を置いて、有難うとお礼を言い、そそくさと銀の上から逃げようとした。
そうしたら腰に腕をまかれ、また銀の胸の中へと戻されてしまった。
「ひゃぁっ」
「し、しろがね! 急に後ろに倒されると危な・・・っ!!」
腕の中にギュッと包み込まれた望美は、抗議をするため銀に顔を向けたところで唇を奪われた。
「これくらいの褒美は戴きませんとね」
「ちょ・・っ し、銀!」
「いけませんでしたか?」
「い・・・っ いけなくは・・・ない・・けど」
不意打ちはずるい。 と、小声でもごもごと云う望美に、銀はニッコリと微笑んで
では、しても宜しいですか? と尋ねると、
望美は真っ赤な顔をしながら
「〜〜〜〜っ バカ!」 と、答えるしかなかった。
それを善しと捉えて、銀はもう一度 望美の唇を堪能したのだった。
2014.07.12