「おお 重衡! よう戻って参った。 待ちわびて居ったぞ」
清盛は、久しぶりに見た我が子の姿に手放しで喜んだ。
「父上、御前に上がるのが遅くなりました事、誠に申し訳御座いませんでした。」
重衡の方は平家に居た頃と変わりない様子で、何時も通りの挨拶を返していた。
空白の時があったにせよ、何ら変わらず自分の元へと戻ってきた事に、ウンウンと頷いて清盛は頬を緩ませた。
「はっはっ そう気にせんでも良い。 お前が戻って来てくれただけで、私は嬉しく思うぞ」
「そう言って頂ければ、重畳で御座います。」
二人の対面を果した所で、何時もの調子で手を挙げて将臣も入ってきた。
「よぅ 久しぶりだな」
「おぉ 重盛も無事であったか! 御主が重衡を助けてくれたのか?」
「いや・・・ 俺じゃなくて・・・」
言葉を濁した将臣の言葉を遮るように、重衡は話しを進めた。
「父上。 父上に会わせたい方が居ります。」
「うん? 平家の手の者か?」
「いえ。 私の正室にと、お連れした方で御座います。」
その言葉に清盛は一瞬眼を見張ったが、
「なんと! はっはっはっはっ この戦乱の最中、何時の間に・・・流石に手が早いのぅ お前達は」
そう言って扇子越しに笑った。
「そんなんじゃねぇとは思うが・・・な」
と、ボソリと将臣は呟いたが清盛には聞こえていなかったようだった。
「以前から想い巡らせて居た方に御座います・・・ ―――十六夜の君。」
その声を聞いて、奥の部屋に控えていた望美はそっと戸を開き中へ入っていった。
「・・・初めまして、お初にお目に掛かります」
「ほぅ。 この者が重衡の・・・」
値踏みをする様に、清盛は望美を見つめた。
「・・・・何やら変わった衣を纏っておるようだが・・・」
清盛の言葉に重衡は素直に頷いて、
「はい。 十六夜の君は白龍の神子に御座います。」
と、さらりと臆することなく返答を返した。
「なに?! 白龍の神子と言えば、源氏方に遣えていた者じゃないのか?!」
寛ぐように、座っていた清盛は突然立ち上がり、厳しい眼差しで望美を睨みすえた。
「はい。 源氏方に居られましたが、先の戦の後 源氏とも決別致しまして、
今はただ、白龍の神子様という名の下にこちらに居られます。 平家に危害を加えるなど御座いません。」
「・・・・誠・・・なのか?」
二人を交互に厳しい目つきで見詰る清盛に、将臣も助け舟を出した。
「あぁ、俺も保証するぜ。 元々こいつは俺の幼馴染みなんだ。別の世界から来ただけの存在・・・
だから一門を滅ぼそうなんて考えは、はなっから無い」
「別の・・・世界?重盛の馴染み? ・・・・その言葉、信じて良いのだな?」
今だ疑惑の眼差しを望美に向けながらも、息子達が云う言葉をどこかで信じたいと願うように、清盛は説うた。
将臣の発した言葉と父親の返答で、扇子越しに重衡が目尻を下げて将臣を見詰た。
清盛が自分を『重盛』と思い込んでいた事を、ハタと思い出して瞬時に背筋に冷たい汗が流れた。
「ええ。 もちろんに御座います。」
仰々しく頷く重衡を見詰ながら清盛は唸りつつ、その後 望美を見た。
それに答えるかのように、凛とした眼差しで清盛に頭を下げて望美は声を発した。
「・・・はい。 信用されるには時間が掛かるのは解っています。
私は兎も角、二人の言葉は信じてあげて下さい」
片眉を上げながらも何処か納得したような清盛は、溜め息を吐きながら座り直した。
「流石、平家を此処まで苦戦させた者だけはある・・・か。」
暫くの間の、睨み合いとも取れるような二人の視線が外され、脇息に肘を突いて言葉を吐いた。
「そなた、その格好では戦にでも赴くようにしか思えん。 着替えをせい」
「え? あ・・・は、はい」
急な言葉に望美はどうすれば良いのか判らずも、とりあえず頷いていた。
「十六夜の君、では母上達の居る処へ参りましょうか。」
ニコリと微笑んで望美の傍へと重衡は赴き、その手を取る。
その直後、望美が出てきた奥の部屋から声が掛かった。
「重衡殿、後の事は私がやりますから お前はまだ父上とお話していてよろしいのですよ」
望美が後ろを振り返ると、奥の部屋から時子が出てきていた。
「母上・・・しかし・・・」
「えっと・・・重衡さん、私は大丈夫だから」
「十六夜の君・・・」
シュンと頭を垂れる重衡に、時子は珍しいものを見るように目を少し見開きながらも
「女人の着替えを手伝うなどと、言わないでしょう?」と、重衡は母にピシャリと言いくるめられてしまった。
「・・・はい。 では、十六夜の君。 また後程」
「う、うん。」
がっくりと肩を落とした重衡の、憂いた瞳の奥、鋭い眼差しで一瞬見詰られ、
望美の中で揺れ動いていた心が確固たるモノに変わった。
「じゃぁ行ってくるね」
「えぇ。 麗しいお姿を拝見出来るのを心待ちにしておりますね」
重衡の蕩けるような微笑みに、望美は顔を真っ赤に染め上げたが、次の一言で一気に醒めた。
「あぁ、少しは綺麗にしてもらっとけ」
「将臣君、一言余計!」
そんなやり取りを、クックッと喉を鳴らせて清盛は笑って見送った。
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「ふふっ こんな可愛らしい人が重衡殿の好みだったとは」
「え・・と・・・あの・・・す、すみません・・・」
望美は何と言葉を返して良いのか判らず、申し訳無さそうに謝ってしまった。
「謝る必要はないのですよ。 もう・・・今生の別れだと覚悟をしていましたのに、
こんな喜ばしい再会を果せるとは思いませんでしたからね」
「は、はぁ・・・」
「奥方様、お着替えの仕度は私共が・・・」
「そうねぇ・・・」
そうは言いつつも、何か渋るような時子の物言いに、今しかチャンスはないのではと望美は口を開いた。
「あ、あの・・・私 重衡さんの事で、お聞きしたい事があるんです」
その真剣な眼差しに、時子は瞳を瞬いたが微笑み頷いて、
「では、私自ら仕度をしますから皆さんはお下がりなさい」
その言葉に戸惑う下女達に、もう一度強い口調で言うと流石に皆下がっていった。
「すみません・・・」
そう言って望美はもう一度頭を下げた。
「貴女は、謝ってばかりですね」
「え・・・・?」
瞳を瞬かせ、おずおずと頭を上げた望美に笑顔で時子は尋ねた。
「十六夜の君・・・と、御呼びすれば宜しいでしょうか?」
「え・・・あ、あの・・・望美で良いです」
その言葉を聞いて不思議に思ったようだが、先程の将臣の言葉で何か納得したようだった。
「望美さん。 重衡殿を・・・そして将臣殿をこの地へ連れて参ってくださった事、本当に有難う」
「・・・っ!」
頭を逆に下げてきた時子に、止めて欲しいと訴えながら苦悩な表情で首を横に振った。
「私は・・・お礼を言われる事なんて何一つ出来ないんです」
「え?」
「寧ろ、怒られに来たと・・・言った方が良いのかも知れません」
望美は、神経を研ぎ澄ますように周囲に誰も居ないかと注意を払った。
「何か、大事な話があるのですね」
そんな望美の言葉と言動に、
意図がある事を読み取った時子は、誰も居ないから大丈夫だと言うように微笑み返した。
「はい。 ・・・重衡さんは、時子さんには真実を伝えたいと・・・そう言っていました」
「私に・・・ですか?」
驚きつつも真剣な眼差しで問い掛けてくる望美に頷き、先を促した。
「私と重衡さんが此処に来た目的は、二つ有ります。
一つは、―――重衡さんを私の世界へ連れて行く前にもう一度ご両親に会わせる為・・・」
「それは・・・誠の事ですか?」
「はい・・・私の我が侭で・・・本当に申し訳ないと思っています」
「重衡殿もそれを望んでいるのですね?」
「え? えっと・・・私にはそう・・・頷いてくれました・・・」
「そうですか。 それならば・・・判りました。 それでもう一つは?」
以前、将臣殿が言っていた別の世界の事だろう。
どの様な場所なのかも分かりもしないのに、其処へ息子は望美と共に行く事を望んでいるのならば
しかと考えて返事をしたのだろう。 ならば自分が何を言うでもない。
簡単に承諾された事に、驚きながらも二つ目の目的を望美は話し始めた。
「それが――――」
「っ!」
「そう・・・ですか・・・ それは重衡殿の決意なのですね」
「・・・・私が・・・」
顔を俯かせて先に続く言葉を押し黙ってしまった望美に、優しく触れてやんわりと諭す。
「望美さん。 全てを背負う必要はないのですよ」
「重衡殿が、私の為を思って成そうとしているのですね」
「・・・違います。 私の我が侭なんです」
「いいえ。 それは違いますよ。」
「本当です! 重衡さん達は何も悪くないんです!」
声を荒げてしまい、ハッとして望美は口元を押さえる。
誰も来ないかと周りを覗いながらすみませんと謝った。
そんな望美に頭を振り、憂いた表情で言葉を尽いた。
「平家の―――いえ、この世界を糺さなければいけないのです。
私も、ただ皆の意思に逆らえずに居た身・・・」
「時子さん・・・」
「一時のぬるま湯に浸かっていても仕方が無いのです」
「っ・・・」
初めから判っていたのだ。
判っていながらも、やはり急に自分の元を去っていく人を想う心は、
あの状況では復活が喜ばしい事だと受け止めてしまった。
いけない事だと何度も思いはしても、どこで区切りを即ければいいのか判らなくなっていたのだ。
だからこそ、この申し出は受けなくてはいけないのだと時子は決断した。
「そして、貴女が白龍の神子様である事、既に『あの人』は知ったのでしょう?」
「はい・・・」
俯いていた顔を上げると望美はコクリと頷いた。
「利用されるのは目に見えています」
「それだけは阻止しなければなりません。 その為に、重衡殿は私にこの事を話せと言ったのでしょう?」
「・・・違うと・・・思います」
その答えに自分にも協力を求めての事だと思っていた時子は、瞳を瞬いた。
「母上は裏切りたくないと・・・そう、言ってました」
「・・・重衡殿」
「だから、真実を自分から話す機会が得られなければ、私から話しておいてくれと言われていたんです」
何だかんだとまだ手の掛かる子達だろうと思っていたのは自分だけだったようだ。
何時の間にか、親を思う大人に成長していたのだと嬉しく思った。
「・・・・一つ、聞いても宜しいですか?」
「はい」
「望美さんは、重衡殿を好いて居られますか?」
「えっ?!」
その言葉に見る間に真っ赤に頬が染まっていく。
「ふふっ 不躾な質問で申し訳有りません。 貴女の表情を見れば聞かなくても・・・で、御座いますね。
重衡殿も大層 貴女の事を気にかけて要らした」
「え?」
「それだけで、私は貴方がたの言葉を信じられましょう」
時子の微笑みに救われ、そして何より何処か肝の据わったような雰囲気は、やはり重衡の母親だからだろうか。
そう思わずには居られなかった。
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「おや これはこれは、何方かと思えば重衡殿でしたか」
「・・・惟盛殿」
「ようやく安寧になってきたと思っていた矢先、厄災を持ち込まれたのですか?」
「っ おま・・!」
将臣が言葉を発しようとしたのを、腕を広げて重衡は遮った。
「・・・どうとでもおとり下さい」
「ふん・・・っ 清盛殿は不死身のお体。そして此処には平家に害を成す者は居ない。
もう重衡殿や還内府殿はこちらに住まわれなくても結構なのですがね」
「それは申し訳御座いませんでした。 努々お心に留めて置きましょう。」
そう言って、深々と重衡は惟盛に頭を下げる。
忌々しげに将臣・・・そして重衡を睨み付けて、惟盛はその場を後にした。
「ったく・・・生き返ったのはてめーも同じなのにな。 望美に封印させてぇな・・・」
「兄上、食い下がっていただき感謝いたします。」
「俺だって・・・色々言いてぇが、あいつは重盛〔おれ〕を憎んでるのも判ってるからな・・・」
自分の父親が甦っていない事くらい、親子だったのだ解るだろう。
それを周りが強引に認めさせて還内府・・・重盛というモノを作り上げさせた。
平家を南へと導いたのは正しくこの将臣なのだが、
結果京から遠く離れたこの地を流刑と考えても同じ事なのだろう。
命を取り留めた事に喜ぶ者も多いのだろうが、やはり不満を持つ者が居ない訳ではない。
「・・・・崇徳上皇を想い起こさせますね」
「そう云うこと言うなよ・・・悪いことしたようにしか思えねーじゃねぇか」
「ふふっ 申し訳御座いません。 もう暫くの時が必要なようですね」
「はぁ・・・でも面倒くせーな。 本心を云えないのは。」
「それも・・・申し訳御座いません」
「ま、惟盛に言えば手放しで喜ばれるんだろうがな」
「・・・そうなのでしょうね」
その少しの間が気になり重衡を見たが、扇子で口元を隠していたので真相は分からなかった。
「宴を模様して戴ける様なので、それが終わって頃合いを見計らい、白龍殿の元へと戻りましょう」
「そうだな。 だが良いのか? もう少しゆっくりしたって俺は構わないぜ?」
あれこれ陰口を言われるのは、耳にタコが出来るのではと思う程、平家に降り立った頃からの事で
今更それで辟易していてもしょうがない。
今生の別れになるのだろうから、もう少し長く留まっても良いのではと将臣は諭してみた。
「あまりこちらに居りましても、十六夜の君がお辛くなるだけでしょうからね」
「あ。・・・あぁ」
そう言えばそうだった。 自分達二人だけならば兎も角、望美も一緒に来ている事をすっかり忘れていた。
「そういやアイツ何処いったんだ?」
「母上に未だ捕まっているようで御座いますね」
「へーぇ」
それで良いのかと、重衡を仰ぎ見る。
「女人同士、話が盛り上がるのでしょうか・・・ね。
私がお傍に行こうとしましたら、母上に邪魔者扱いされてしまいましたよ。」
最近じゃ、厭な事しか話題がなかったのだろう。
そこに、重衡の帰還と婚礼話までが一緒に付いてくれば、何となく内部が浮き足立つのも判る。
「お前が此処に来る前に言ってた言葉が何となく理解できたぜ・・・」
「ご理解戴けてよう御座いました」
平家の居る島へ渡る間際 ―――――
「あぁ、言い忘れていましたが兄上」
「ん? 何だ?」
「折入ってご相談が――――」
「あぁ? 何だよそれ。 一番重要な事だろ?それを隠しとけってのか?」
「はい。 父上はきっと我々が永住する事を望んで居られるでしょうしね。」
「その為には、口が裂けても貴方がたの世界へ行くなどと言えません。」
「だが・・・」
「一度 二人に会って話す事さえ適えば、十六夜の君との約定は果たされます。」
「折を見て、船へ戻り引き上げる形を取りたいのですよ。」
将臣は渋い表情をしたが、生前の清盛と今怨霊として復活した清盛とでは、大分性格が変わってしまっている。
直ぐに頭に血が上る事も何度か目にしていた。
「・・・分かった」
「有難う御座います。」
そんなやり取りをしていたのだ。
言葉数が少なくなりつつも、邸内の散策を二人はのんびりとしていた。
「重衡殿・・・? 有川殿?」
その声に振り返ると、経正が驚いた表情で立ち尽くしていた。
+++++++++++++++++++++++++++++
他愛無くあの頃を懐かしむように経正と、
後から合流した忠度と話し込んでいたら、清盛が重衡の元へとやって来た。
「重衡・・・あの娘・・・白龍の神子といったな」
「はい。 左様に御座いますが」
「使えそうだな」
そう言ってニヤリと口の端を上げて微笑んだ。
「・・・・っ!」
清盛の言葉に将臣は即座に反応して言葉を発しようとしたが、重衡が制した。
「皆様申し訳御座いませんが、暫し席を外していただいても宜しいでしょうか。」
「・・・っ だがお前!」
「本来、重盛にも同席してもらいたのだが・・・もう少し後の方が良さそうだな」
悪巧みをするような微笑みを扇子の外からでも見て取れる表情を浮かべた清盛に、
素直に従うように重衡は頷いた。
「ええ、斯様に――――」
「重衡、お前!」
自分を見もせず清盛と話し始めた重衡に、怒りを爆発させたかったがそれよりも
望美に話さねばと、その場を早足で後にした。
+++++++++++++++++++++++++++++
「おい! 望美、居るか!?」
「きゃっ!? な、何 将臣君?」
「将臣殿、幾ら望美さんと仲が宜しいと言っても、女人の部屋に入る時はもう少しわきまえて下さいな」
「あ・・・ す、すまねぇ・・・」
時子の物言いに一瞬怯んだが、ハッと我に返って先程の出来事を早く言わねばと将臣は急き立てた。
「そんな事より、重衡と清盛が!」
「え?」
「それ・・・本当?」
将臣の言葉に顔を曇らせ俯く望美を見て、
時子は話は終わったのならばまだ用意は済んでいないと、将臣を部屋から追い出した。
「望美さん・・・平気ですか?」
「あ・・・はい。 すみません、大丈夫です」
銀が以前、航海中に言っていた言葉はこれだったのだなと、ようやく理解したところだった。
だが、その為には自分はどの様に行動すれば良いのだろうか・・・。
そちらの方が気がかりだった。
「重衡殿を、信用できませんか?」
その言葉にハッとして、直ぐに頭を振って否定した。
「いえ、違うんです。 前以って言われてはいたので・・・
でも、どう対処すれば良いのか、其処まで私は咄嗟に判断する事が出来なくて・・・」
確かに望美を見ていると裏表の無い素直な人なのだと判る。
だからこそ、惹かれるものがある。
そして、その純粋さを判って重衡は利用しようともしているのだろう。
「ふぅ・・・こんな事でなければ、私は重衡殿を叱咤しているところですが・・・」
「・・・え?」
その言葉に疑問を憶えて時子を見れば
「こんな可愛らしい人を傷つけようとするのですもの。ましてや恋仲の相手を・・・。
親としては躾がなっていないと云われてしまうでしょう?」
「は・・・はぁ・・・」
その言葉に照れながら、望美は曖昧に返事をするしかなかった。
「何があろうと、私も貴女の味方です。 それを努努憶えておいて下さいね」
その堂々とした言葉には似つかわしくないような温和な表情に、
安堵した望美は、零れるような微笑みを顔一杯に湛えて謝礼を言った。
「ありがとうございます」
その表情を見て、時子も表情を崩してクスクスッと笑顔で答えた。
「重衡殿が好くのも判る気がしました」
「へ・・・?」
コロコロと表情を変え、こんなにも素敵な微笑みを見せられれば、
あの重衡も惹かれるのも無理はないのだろうと時子はどこか納得したのだった。
2014.10.31