「此処は・・・・・・」
「戻って・・・きたんだな・・・」
「あ・・・ 先輩、兄さん、・・・重衡さん・・・」



【始まりの時】




雨の降る渡り廊下に舞い戻ってきた三人と銀。
帰ってこれた喜びも束の間、銀をこのまま学校に居させる訳にはいかないということで、
裏門から四人は家に向かうことにしたのだった。

「俺らは一度教室戻って荷物持ってくるから、先に二人で行ってろ」
「ごめんね、将臣君。 譲君。  いこ、銀」
「はい  申し訳ございません 将臣殿、譲殿」 ぺこりとお辞儀をしてから望美の後を銀は追っていく。
人目につかなそうな場所に銀を少し待たせ、靴を取ってくる。
それから一直線に裏門を目指して、二人は足早に進んでいった。
丁度裏門を出て直ぐのところに木があったので、そこで雨宿りをして二人を待つ事にした。
「銀 大丈夫?」
時空を越えてくる事は解ってはいるが、やはり突然な事だ。
銀の顔色を見て その為、具合が悪くなったかと不安になった。
「はい 私が居りますと皆さんにご迷惑をお掛けしてしまい・・・」
しかし、自分の不安とは違った事で、顔色を悪くしていたようだった。
「銀は謝らなくて良いんだよ。 寧ろ私が謝らないと・・・銀をこっちに連れてきたのは私なんだから ごめんね」
「いいえ 滅相も御座いません。 自ら望んだこと。神子様が謝る道理は御座いませんよ」と、銀は微笑んだ。


「お 居たいた。 遅くなって悪かったな」将臣が手を上げてこちらへ向かって走ってきた。
「うぅん そんな待ってないよ」 
ほれ。と、鞄とコートを渡される。
こっちは重衡な。そう云って、将臣は自分のコートを銀に投げて渡した。
「こちらは・・・」
「その格好のままじゃ目立つだろ。 それ羽織っとけ」
確かに、直衣ではなかったが、平泉の頃に来ていた服であったため、こちらの世界では目立つ。
「すみません お借り致します」銀と将臣の身長が同じくらいなので、コートは丁度良さそうであった。
「誰かに何か言われなかった?」
「いや、次移動教室だから誰も居なくて丁度良かったぜ」
それよりも・・・
「譲君大丈夫かな・・・ 早退なんてした事ないだろうし・・・」
そう、見た目からしても真面目としか思えない譲が、
学校を途中で抜け出すと言うのは、大丈夫だろうかと不安が頭をよぎる。
それから暫くして、譲は少し息を切らしてやってきた。


「すみません! お待たせしてしまって」
「うぅん 大丈夫だった?」
「はい 何とかやり過ごしましたよ。 っと、これを・・・お二人で使ってください」
そう言った譲の手には、普通の傘と折りたたみの傘があった。
「! 譲君、準備良いね! ありがとう」譲は普通の傘を望美に手渡した。
「兄さんはこっちな」折り畳み傘を開きながら譲は言った。 「おぅ サンキュー」
「お2人とも、ご不便をお掛けしまして申し訳御座いません。
私の事は気になさらず、学校の方へ戻られても・・・・」
「そう云う心配すんな」
「兄上・・・」
「重衡・・・こっちでは兄上っつーなって」
「・・・はい・・・」
「まー。俺らもあんな状況から急に学校帰って来たところでさくっと順応出来るでもなし。
明日行きゃいーんだよ それに今後の事も話さないといけないだろ。 って事で、ほら。 かえっぞ」
「「「はーい はい」」」 将臣の言葉に、皆素直に従った。


「母さんが丁度、今日から父さんの出張先に行くって言ってたよ」
その譲の発言で、四人は有川家へ帰ってきた。

雨に当たった四人は、このままでは風邪を引くだろうと云う事で、風呂に入る事にした。
「先輩、先に入って下さい」
「え、良いよ。 先に将臣君と譲君入って? 傘小さくて随分濡れちゃったでしょう?」
「ばーか 俺たちは良いんだよ とっととお前が入れ」
「もうっ 馬鹿って何よぅ・・・」 分かったよ・・・と云って、渋々お風呂場へ望美は向かっていった。
「あ・・・ 着替えないや。 将臣くーん 何か服貸してー」
「お前の部屋、窓開けてないのか・・・ しゃーねーなぁ」
「重衡にも服貸さないとだな。 暫く俺ので我慢してくれよ」
「・・・・・はい 申し訳御座いません」
「ん? どうかしたか」
「いいえ 何も。」そう言って微笑んだが、
早く望美の服が乾いて欲しいと願う銀だった。


「重衡さん どうぞ」
「・・・あ 有難う御座います。 ・・・・・」
「ん? 銀、どうしたの?」
目の前の果物が入った器から顔を上げ、銀は答えた。
「あ、いえ この透き通った器は何と・・・」
「え? あ、あぁ ガラスの器だよ 綺麗でしょ?」
「えぇ 光の加減で・・・でしょうか色彩が変わってとても美しうございますね」と、ふわりと微笑む。
「私、電車とか車を見て驚くんだろうなーって想像してたけど、ガラスでこんなに吃驚すると思わなかったよ」
「すみません。 このような透き通ったガラス細工の物など見た事がなかったもので・・・ 
こちらには興味を惹かれるものが数多御座いますね」
「あ、謝らないで。私の言い方が悪かったかな  何だか嬉しいんだ。
銀が語る一つ一つが、新鮮に見えて色付くみたいで」
「さようで それならばよう御座いました」
「そうですね。僕らには当たり前でも、見る人によって違いがある事に・・・
僕らが異世界に行った直後みたいで楽しいですね」
「うんうん」
ようやく落ち着き、和やかに三人は話していた。



「さてと・・・ 先ずは重衡の居住まいをどうするかだな」
「それなんだけど、私・・・両親に話してみようかと思うんだ」
「望美? 先輩・・・? 神子様」三者三様に返答する。
「だって、いずれ気付かれるだろうし、親には嘘は・・・つきたくないよ・・・」
「もしそれで反対でもされたらどうするんだ?」
「・・・ 家を出る・・・」
「神子様! 先輩!!」
「だって!! そうでしょ・・・反対されたら、銀と一緒に居ちゃ駄目って云われたら・・・
そんなの・・・耐えられないよ・・・」
「神子様、私の事はどうでも良いのです。」
「違うでしょ! 何のために一緒にこっちに来たの! それじゃ駄目なんだよ!」
「・・・神子様・・」
「あー・・・ まぁなんだ。 まだ反対されるかわかんねーんだから、そうなった時にまた考えろ。
何かあれば俺達で何とかする。 取り合えず、親に言うんだな?」
こくり、と望美は頷いた。
「異世界の事も・・・言うのか?」 少しの沈黙の後、またこくりと望美は頷いた。
「・・・分かった。 まだ学校が終わってないから家には帰らない方が良いな。
もう少し此処に居ろ。その間によく使う物の使い方教えておく」


そんな中、急に庭の方が光り始めた。 何事かと皆で見ていたら、見知った姿が現れた。
「「「白龍!!」」」

「私の神子 銀の籍や必要な物を少し用意したよ。」そう言って、白龍は銀に包みを手渡した。
「白龍殿・・・ 有難う御座います。」銀は深々とお辞儀をした。
「白龍・・・」
「神子・・・ 神子に幸あらん事を・・・」
白龍はそう言い微笑んで、すぅっと光に吸い込まれていった。
「待って、白龍!!   はく・・・りゅう・・・  ありがと・・・う・・・」
うずくまる望美を見ながら将臣は頭をがしがし掻き、
「色々用意してくれたなら、服も用意してくれりゃーよかったのになぁ?」と、将臣が茶々を入れる。
「兄さんは気遣いって言葉、知らないのか?」
「兄上なりの気遣いですから、譲殿。 あまり気になさいますな」
そう言って、銀は望美の背をそっと擦ってやった。
「・・・・・・重衡さんは兄さんに甘いですよ・・・」
 譲はため息をついて、台所へ歩いていった。



その後四人は望美の家へ行き、両親を説得しに行ったのだが・・・・・・
案外あっさりと重衡の事を受け入れてくれた。
望美の母が甘かったのだろうと、三人は思う他無かった。

今直ぐお世話になるのは憚れると言う事で、その日は有川家で銀はお世話になる事となったのだった。

2013.8.27


後記

大分適当に話を進めてしまった作品です・・・ 今後修正を入れたいと思ってます。