「これ着て今日は寝てくれ」
そう言って、将臣は銀にパジャマを投げて寄越した。
「・・・兄上」
「ん? 何だ? 着方でもわかんねーか?」
「いえ。 お時間が有るのでしたら、こちらの衣を見てみたくて・・・少し着て見せては戴けませんか?」
「俺にファッションショーやれってか?」
「ファッショ・・?」
初めて聞く言葉に眉根を寄せる重衡を見つつも、
向こうの世界よりは着易い作りだが、初めてなのだからしょうがないとも云える。
「・・・しゃぁねーなぁ・・・」
何種類か着まわして見たが、重衡は何か難しい顔をしたままだった。
「何だよ・・・何か云いたいなら言えよ」
「そう・・・ですね。 兄上に着て頂きましたが、思うと兄上と私とでは雰囲気が大分違います」
「まぁな」
「譲殿に着て頂いた方が、私に近しいかと」
「・・・・・・。」
そう思うなら早く言え! と、頭の中で少し苛々したがしょうがない。
確かに自分と重衡じゃ服の好みは大分違いそうだ。
その事に早く気付けなかった自分も悪いだろう・・・と。
「じゃぁ 譲のところ行くか」
「はい」
そう言って、重衡はニコリと笑い返した。
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「って事で、少し着せ替え人形よろしく」
どっかりと譲のベッドを陣取って、将臣は面倒そうに説明して言った。
「・・・俺が?」
「俺は既にやったんだ。 早くやってやれ」
「はぁ・・・兄さんは勝手だな」
「申し訳御座いません。 譲殿」
「いえ。 重衡さんは良いんです」
「何で重衡は良くて、俺は駄目なんだよ」
「兄さんだから」
そんなやり取りを見て、クスリッと重衡は笑いを零した。
「笑ってんなよ。 元はと言えばお前が悪いんだろうが」
ジロリと重衡を睨んだが、
「これは失礼」と重衡は口元を隠し言ったが、
絶対反省してねぇ・・・そう思えてならなかった。
「・・・これ位で良いですか・・?」
2、3枚上着を着回してくれた譲を、満足そうに頷いて重衡は微笑んだ。
「有難う御座いました。 譲殿に着ていただいて、自分の中でしっくりといきました」
重衡の微笑みにつられ、譲も微笑み返した。
「それならよかったです」
「ったく・・・俺が着る事なかったじゃねーか」
そんな二人にブツクサと文句を言いながら、将臣は自室へ戻って行った。
「すみません・・・兄さんは何時もあんな調子なんで・・・」
「いえ。 気になさいますな、譲殿。 兄上には少し仕置きを・・・ね」
「え・・・?」
「先程、何もせずに寛いでいらしたので、譲殿の苦労を、少々違う形ですが受けていただこうかと・・・」
「そ、それで着回しを?!」
「譲殿に見せて頂きたかったのは、本心で御座いますよ」
「兄上にはその倍以上、着て頂きましたけれどね」
譲にニコリと微笑み返すその顔は、悪巧みを楽しむ子供の様だった。
自分とは真逆の場所に位置していると判っていてやらせていたようだ。
重衡の言動に驚きつつも、自分の事を思っての行動だと言う事にまた驚かされた。
「まさか・・・俺の為にしてくれてたとは・・・思ってませんでしたよ。」
「思わせていたら、兄上に悟られてしまいますからね」
「重衡さんって・・・」
「はい?」
「いえ、何でもありません」
「?」
『銀』の面影しか知らない譲には、平家での二人のやり取りを垣間見たようで
少し面白可笑しく思えた。
今まで近づき難い印象があったが、案外と話せば理解してくれるのかもしれないと、
譲は今日一日で重衡に対して、もっと気楽に接して良いのだと思えたのだった。
2014.2.20