「将臣殿、少々ご相談したい事がございます」
「ん? どうかしたのか?」
「それが・・・・・」
【 高い塔 】
「流石・・・と言うべきか、当たり前の事なのか・・・」
今居るここは、都内の超一等地と云っていい場所だ。
その最上階に当たる場所に、重衡に用意された家はあった。
「白龍殿もつれないお方だ・・・ こちらでは、神子様とお会いする事が難儀になってしまいます」
なんて、大分 的外れの言葉を発している。
「で、此処を売却して本当に良いんだな?」
「えぇ もちろんです。 春日家にお世話になれるというのであれば、此処は不要。
それに、此処を売れば幾ばくかの資金も貯まりましょう。 神子様や兄上達に気を使わずに済みますゆえ」
白龍は、平家の身分相応の財などもしっかりと与えてくれていたようだ。
・・・・・幾ばくではなく何年か働かなくても良い程の・・・。
「このような事は、神子様に相談するのは憚りますので」
「ま。 そうだな、あいつには言わない方が良いだろ」
「さてと、折角此処まできたし。 俺たち二人で出歩いてたとなると、
望美も不審がるだろうから、男同士でしか出来ない買い物でもしてくか」
「はい」
「職に勤かねばなりませんね」不意に、銀はそう言葉を紡いだ。
「仕事か。そうだなぁ〜 まぁ、お前は要領良いだろうからな、意外と何でも簡単に順応出来そうだろ」
「兄上は買被り過ぎです。 文字や神子様がおっしゃっていらした・・・
機械などの必需品をそうやすやすとは覚えること適いませんし・・・」
「そうだなぁ 力仕事とかの方が最初は良いのかもな」
「そうですね。 ・・・それならば出来そうです」
しかし、最近は不況という事で職に就けないものが多いと新聞には書いてありました、と語る。
うーん・・・確かにそうだよなぁ・・・どうしたもんか。 う〜んう〜ん・・・と思案していたが、ピンと着た。
そういやこいつ、朝早いな・・・と。
「重衡、お前朝早いの平気だろ?」
「以前の刻限であれば大事無いかと」
「ならこう云うのもあるんだが・・・・・」
早朝バイト。 朝早ければ、自給もそれなりに良い。
遅くともお昼過ぎには上がれるだろうから、その後他の事に打ち込みやすい。
「その刻限ならば、神子様との逢瀬も長く取り易いですね」と、にこりと微笑む。
しかし朝餉を共に出来ないのは残念ですが・・・と。
「・・・・・・ あぁ・・・ まぁな・・・」そう言えばそうだった。
こいつの頭の中は一に神子様、二に神子様・・・他は蚊帳の外にでも捨て置かれる。
「こちらの世界には数多の役職が御座いますね。
簡単には選びきれそうに御座いませんし、しばしその仕事をいたしてみましょう」
雇っていただければ・・・ですが。 と、付け加えられたが、
寧ろこの容姿と立ち居振る舞いの者を拒む者がいるのだろうかと思う。
二人は色々見繕って、買い揃えた。
「ま、こんなもんで良いだろ。 あんまり遅くならねーうちに帰るとするか」
「そうですね。 将臣殿、今日は誠に有難う御座いました」とても助かりました。
と軽くお辞儀をし、重衡は云う。
プライドが高い重衡は、こちらでの当たり前の習慣や事柄を望美に聞きたくはなかったようで、
将臣との買い物はとてもよかったようだ。
「だから殿はいらねーって・・・」後そんな肩っ苦しい事すんな。と、付け加える。
苦笑しつつも「すみません」と言う辺り、楽しんでやっているようにも見える。
「でもまぁ、妙な感じだな」
「妙?とは」
「兄上、将臣殿、どちらで呼ばれるのも困るんだが・・・」
「兄上って云われると、重衡と話してるように思えるし 将臣殿って呼ばれると、銀と話してるようでな」
「あぁ・・・ 申し訳御座いません どちらがよろしいでしょうか」
「だから良くねーって・・・ でもなんだろうな・・・銀の方が俺としては余所余所しく感じられるからなぁ」
「ふふっ 流石は兄上。 私もそう思いますよ。 神子様同様、未だ慣れぬのです。
血は繋がらずとも我ら一門は、共にした時から家族も同然。
そう思えば、やはり兄上は兄上なのです。 例え歳が下であろうとも・・・ね」
「ま、気楽に話したい時はそれでいい。 ごちゃごちゃ考えすぎる事でもねーしな」
「痛み入ります。 精進だけは致しますよ」
「・・・お前、ブラックだな」
「はて ブラックとは・・・。」
「腹ん中真っ黒って事だよ」
「それは心外な」と、渋い顔をしながらも、くすくすっと笑うのを見て、釣られてこちらも笑い返す。
重衡が穏やかに話すのを見て、平家に居た時の事を思い返す。
あの頃は、何に対しても飽いているようにしか見えなかった。
だからなのか、牡丹の君とまで謳われた者にしては影が薄かった印象があった。
ちょっとひねくれたようになってしまったのはどうかと思うが、興味を抱くものがあるからこそだろう。
あの頃よりも今を楽しんでるようで何よりだと思う。
こんな他愛無い話を楽しめるようになったのは、やはり望美のお陰なのだろうか・・・。
平家の頃を知っていても、それにもまして初めて見る表情を将臣も嬉しく思い、話は尽きなかった。
そんな、気品や他にはない雰囲気を纏った二人を、道行く人達は思わず足を止めて見てしまう。
それに気付いてない二人は、和やかに話しながら家路への足を速めた。
「帰ったぞー」
「ただいま戻りました」
バタバタバタバタッと、ドアが開く音を聞きつけて望美が駆けてきた。
「お帰りー! 銀! 将臣君! 二人でどこに行ってきたの!? 私も一緒に行きたかったのに・・・」
ハッ!って言うか、勉強しなくていいの?! 将臣君!! と、望美は捲くし立てる。
「何でお前が人の家に堂々と居座ってんだよ」 何時もの事だが一応言ってやる。
「銀が家に居なくて、こっちなのかなーって・・・そしたら譲君が二人で出かけたって言うから・・・」
まさか銀に置いてけぼりを食らうとは思っても居らず、ションボリしていたと話す。
「申し訳ありません、神子様・・・」ワンコがションボリと耳を伏せるような・・・
そんな表情で望美を銀は見つめ返す。
「たまにはな、男同士で出かけないといけないこともあるんだよ」な? と言って、重衡の肩に腕を回す。
くすくすと笑いながらも、 はい。と答える重衡が、実に楽しそうで面白い。
「何よー そんな隠し事みたいなこと! 私と銀の仲なのに!」
「大層 ラブラブな事云ってくれんじゃん」はんっと、鼻で笑ってやる。
ハッと、望美は自分のいった事に我に返る。
そして銀の方を見ると、とても輝いた瞳で見つめられていた。
それはワンコが尻尾をはち切れんばかりに振っているかのごとく・・・。
「神子様に、其れほどまでに思われていようとは。
至極至福の極みで御座います」と云って、そっと望美の手を取る。
「えっと・・・その・・・」これは・・・ね・・・? 将臣君や譲君に言うのと同じような感覚で・・・
と、言いたいが、熱い眼差しで見つめられてしまったら、云えるものもいえない。
「折角の休暇に、その可憐なお姿を独り占め出来なかった事は、とても胸が詰まる思いでございしたが・・・、
その甘美なお言葉をお聞き出来たのは、今日一日お傍を離れていたゆえの事かと思えてなりません。
遅くなりましたが、これから二人だけの時間をゆうるりと・・・・・」
「た、助けてー 将臣君・・・っ」
「俺は勉強あっからな」勝手にやってろ。 そう云って、その場を立ち去った。
そんなこんなで、いつの間にか出かけた理由は有耶無耶になっていた事に気づけない望美であった。
「やっぱ ブラックだな・・・」苦笑と共に、ボソッと将臣は呟いた。
後日談。
易々と仕事は決まった。 流石 重衡。 とでも云うべきか?
2013.9.15
後記
この二人って書きやすい感じです。 テンポが良いのかな・・・将臣が良いのかな・・・
平家万歳!!